エジプトのミイラ

    アリキ文・絵 神鳥統夫訳 佐倉朔監修
    あすなろ書房/ 2000年/ エジプト/ 小学校低学年から/ 絵本

    エジプトのミイラやピラミッドはなぜ、どのようにしてつくられたのか? 科学絵本を得意とする著者がその疑問に答えてくれる絵本。およそ 5000年前、北アフリカに栄えた古代エジプト文明のミイラづくりの工程やミイラの種類、ミイラのお守りや棺、墓やピラミッドの仕組みなどを解説していく。古代の絵画や彫刻に基づいて描かれた絵と文章は簡潔でわかりやすい。人が死んだ後、この世と同じように墓の中で死の世界を生き続けられるようにと、古代エジプトの人々は考えていた。当時の宗教観や精神世界についても子どもたちに分かりやすく伝えてくれる。

    古代アフリカ:400万年前の人類と消えた王国 巨大大陸の謎を追う

    ヴィクトリア・シャーロー著 赤尾秀子訳
    BL出版/ ナショナルジオグラフィック考古学の探検/ 2013年/ 小学校高学年から/ 63p

    アフリカ大陸における、考古学的遺跡・遺物の発見の歴史を伝える本。かつてヨーロッパの人から “暗黒の大陸”と呼ばれたアフリカだが、実は人類発祥の地であり、かつては幾つもの王国が栄えていたことが判明した。本書では金銀や宝飾品だけではなく、当時の生活がわかる遺物を重視している。登場する考古学者は20名以上で、テーマも最古の人類化石から、バナナ栽培の歴史、古代の交易、エジプトとヌビアの関係、ジンバブエの石造遺跡、岩絵などと年代も地域も広く、情報量が多い。最後に盗掘などの遺跡破壊対策と、アフリカ出身の考古学者育成の現状についても触れている。

    古代エジプト よみがえりのヒミツ

    結城昌子著
    小学館/ 小学館あーとぶっく 美のおへそ/ 2012 年/ エジプト/ 小学校中学年から/ 32p

    古代エジプトの人々は、死後はあの世を旅して生まれ変わると信じ、ミイラとして肉体を保存することによって魂が戻る場所を残した。この本は、ピラミッド内部の壁画や、ミイラを収めた棺に描かれた絵や文字が、鮮明な画像で掲載されている美術絵本である。さらに、絵や文字の意味が、作者の手書き文字でわかりやすく解説してあり、楽しく読むことができる。特に、あの世を渡り遂げるための呪文集「死者の書」については、あの世にいる様々な神様、乗り物、心臓の重さを図る場面などがあり興味深い。ブドウの収穫、レンガ職人、髪飾りや楽器の絵など、古代エジプトの豊かな暮らしも知ることができる。

    古代エジプト入門

    内田杉彦著  
    岩波書店/ 岩波ジュニア新書/ 2007年/ エジプト/ 中学生から/ 239p

    ナイル川の氾濫を活用することから生まれたエジプト文明は、農耕・牧畜の時代を経て、紀元前3000年ごろには統一国家を成立させた。「神」として強大な権力を持つ王が君臨する歴代王朝は、独自の文化を発展させていく。最後のプトレマイオス朝に至るまでの約5500年に及ぶ歴史を、数々の王朝の盛衰をたどりながらコンパクトに解説した本。著者はエジプト学専門の研究者。巻末で、さらに知識を深めたい読者に参考図書を紹介している。簡単な年表付き。必要な写真や地図、図版が挿入されているが、新書なので小さい。中高校生が、しばしば催されるエジプト展やテレビ番組の特集などを見て興味を持ち、歴史を勉強したいというときにすすめたい。

    表紙画像

    古代エジプト:黄金のマスクとピラミッドをつくった人びと

    ジル・ルバルカーバ著 日暮雅道訳
    BL出版/ ナショナルジオグラフィック考古学の探検/ 2013年/ エジプト/ 小学校高学年から/ 63p

    古代エジプトに関する歴史的発見から、最新の電子機器を使った調査、そして今後の課題である遺跡保護までを、豊富な写真を使って解説している。「もしも3000年後の未来に考古学者があなたの家を調査して暮らしぶりを知ろうとしたら?」などと問いかけることで、考古学調査の手法を理解しやすく説明。また、よく知られるピラミッドや王にまつわる遺物だけでなく、王家の墓を建造した職人たちの日常の暮らしや、当時の人々が食べていたパンなども復元されていることが本書によってわかる。何人もの考古学者が紹介されているが、それぞれ発見時の興奮が伝わってきて興味深い。

    サラの旅路:ヴィクトリア時代を生きたアフリカの王女

    ウォルター・ディーン・マイヤーズ著 宮坂宏美訳 
    小峰書店/ 2000年/ ベナン/ 小学校高学年から/ 159p

    アフリカのある王女の運命を描いた実話。19世紀半ばに西アフリカ、オケアダンの王家に生まれたサラは、5歳の時隣国ダホメー王により家族を虐殺され、捕らわれる。あやうく生け贄にされるところを、奴隷貿易廃止の使命を帯びて来ていたイギリスの海軍士官に救われ、ヴィクトリア女王への贈り物という名目でイギリスへ。以後は女王の庇護を受け、上流階級の家で育てられ魅力的な女性に成長するが、自分の本当の居場所が見つけられない。やがて結婚し、西アフリカで事業とキリスト教の布教に携わる夫とともに教育に力を注ぐが、病に倒れ若くしてこの世を去る。奴隷貿易の問題や英国人の特権意識など、サラの目を通して考えさせられる。肖像写真あり。

    シュヴァイツァー:音楽家・著作家の実績をなげうって、アフリカの医者として献身した人

    ジェームズ・ベントリー著 菊島伊久栄訳 
    偕成社/ 伝記世界を変えた人々/ 1992年/ ガボン/ 小学校高学年から/ 180p

    1913年にガボン共和国(当時はフランス領)のランバレネに病院を建て、50年にわたりアフリカ人の医療に携わったドイツ人医師アルベルト・シュヴァイツァーの伝記。日本では1950年代から、子ども向けのシュヴァイツァーの伝記が数多く出版されてきたが、その多くは、伝染病のはびこる「暗黒の地」アフリカに生涯を捧げた聖人として描いたものだった。しかし本書は、悩みながら自分の道を切り開いていった1人の人間としての生き方を感傷を排して客観的に追っており、アフリカへの偏見も見られない。本人の著書からの引用や多数の写真も興味深い。「偉人伝」としてよりも、当時のアフリカの様子を知るための資料としてすすめたい。

    ツツ大主教:南アフリカの黒人差別・アパルトヘイト(人種隔離)政策に対してたたかう勇敢な大主教

    デイビッド・ウィナー著 箕浦万里子訳 
    偕成社/ 伝記世界を変えた人々/ 1991年/ 南アフリカ/ 小学校高学年から/ 174p

    1931年に南アフリカの貧しい黒人町に生まれたデズモンド・ツツは、大学を卒業して教師になるが、黒人に充分な教育を受けさせることを阻む「バンツー教育法」の施行で教職をあきらめて神学校に行き、司祭への道を歩み始める。本書は1984年にノーベル平和賞を受けたツツ大主教の伝記だが、個人の歴史にとどまらず、南アフリカの悪名高きアパルトヘイト体制がどのようなものだったか、ツツや黒人たちはそれとどのように闘ったのかについて、ていねいな記述がなされていて、わかりやすい。ただし原著は1989年に出版されたものなので、今後の再版時には、1994年の民主化とその後の様子もつけ加えてもらえると、さらによいのではないだろうか。

    動物研究者ダイアン・フォッシー

    柴田都志子著  
    理論社/ こんな生き方がしたい/ 2004年/ ルワンダ/ 中学生から/ 206p

    フォッシーは、ゴリラの生態の研究者として著名な女性。残された著作をもとに、実際に接していた日本の研究者に取材をしたり、研究者の著作に言及された部分を取り上げたりして伝記にまとめた。紆余曲折を経て、自らの信じる道を選びとり、ゴリラの生態を間近で長期的に観察することでオーソリティーとなった様子がていねいに描かれている。マウンテンゴリラのことやアフリカにおける環境保護と暮らしの両立の難しさ、悲劇的な最期とその後の世論の高まりまで描き、現在へとつなげている。簡単な年譜付き。様々な分野で活躍する女性の伝記シリーズの1冊で、読み物としてもおもしろい。

    ネルソン・マンデラ

    カディール・ネルソン作・絵 さくまゆみこ訳
    すずき出版/ 2014年/ 南アフリカ/ 小学校中学年から/ 絵本

    20世紀の南アフリカではアパルトヘイト政策のもと、人口の7割を占める黒人はさまざまな権利を奪われ、政治的にも経済的にも大きく差別されていた。マンデラは若くして反アパルトヘイト運動に身を投じ、反逆罪で逮捕され、27年半も刑務所ですごしたが、決して戦いをやめなかった……。大統領となり、ノーベル平和賞も受賞したマンデラは、今なお、多くの尊敬を集めている。その半生とメッセージを力強いイラストで描き出した絵本。訳者あとがきには、本文からは捉えきれない、南アフリカでの差別の内実や反アパルト運動の経緯が簡潔にまとめられていて、わかりやすい。

    ワンガリの平和の木:アフリカでほんとうにあったおはなし

    ジャネット・ウィンター文・絵 福本友美子訳 
    BL出版/ 2010年/ ケニア/ 小学校低学年から/ 絵本

    アフリカ女性で初めてノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイの伝記絵本。ケニア山のふもとの緑豊かな村に育った少女ワンガリがアメリカ留学から帰国すると、故郷の自然は荒れ果てていた。自宅の裏に9本の苗木を植えることから始めた小さな緑化運動が、村の女性たちに伝わり、他の村や町へ、やがてアフリカ全土へと広がっていく。作者は伝記絵本の名手。1人の女性の信念が困難に打ち勝ち人々や社会を動かしていく様を、平易な言葉とすっきりデザインされた画面で、わかりやすく簡潔な物語にまとめている。「グリーンベルト」が伸びていく様にわくわくし、ラストのケニア山頂からの眺望には大きな達成感と開放感を共有できるだろう。

    ワンガリ・マータイさんとケニアの木々

    ドナ・ジョー・ナポリ作 カディール・ネルソン絵  千葉茂樹訳
    すずき出版/ 2011年/ ケニア/ 小学校中学年から/ 絵本

    アフリカ女性初のノーベル平和賞受賞者ワンガリ・マータイが、「ママ・ミティ(木の母)」と呼ばれるまでのお話。古く語り継がれる木々の物語に育まれ、その知恵を受け継いだワンガリを、ケニア中の女性たちが訪ねてくる。貧しさを訴える女性たちに、ワンガリは「その手、その腕でできることをしましょう」と苗木を授ける。自らの手で苗木を植え育てた女性たちはその実りを分けあい、やがてケニアは……。「モグモ」「ディギ」「モビロ・モイロ」などの木々の名前と、繰り返し語りかけられる「ザァユ・ニュンバ」という言葉。「キクユ語」独特の語感と、アフリカンテキスタイルを多用した力強い絵が織りなす、祈りのような一冊。