アフリカ ないしょだけどほんとだよ

    竹下文子作 高畠純絵 
    ポプラ社/ 2003年/ 小学校低学年から/ 79p

    ワニ、ライオン、シマウマ、ヘビ、ゾウ。アフリカの人気動物たちが勢ぞろい。5つのお話がつながって1冊の本になっている。ワニのお話の最後に、「ほんとだとおもったらライオンさんにきいてごらん。」とあるように、次のお話の動物の名前が出てきてつながる仕組み。バナナが好きなワニ、歯磨きがきらいなライオン、しっぽをなくしてしまったシマウマ、ものすごく長ーいヘビ、スキップの得意なゾウなど、ユーモラスな設定がおもしろい。アフリカにはこんな動物たちがいるんだよ、と紹介することで、子どもたちがアフリカに興味をもつきっかけが作れそう。

    アンナのうちはいつもにぎやか:アンナ・ハイビスカスのお話

    アティヌーケ作 ローレン・トビア絵 永瀬比奈訳
    徳間書店/ 2012 年/ (西アフリカ/ナイジェリア?)/ 小学校低学年から/ 160p

    主人公は、アフリカの少女アンナ。いっしょに暮らしているおじいさん、おばあさん、おじさん、おばさん、いとこたちはアフリカ人だが、お母さんはカナダ生まれの白人。アンナの下にはムチャとクチャという双子の男の子がいる。本書にはにぎやかな大家族に囲まれたアンナのお話が4つ入っている。作者はナイジェリア生まれの女性作家で、欧米や日本の作品とはひと味違う暮らしぶりや価値観を知ることができる。一つ気になったのは、どのお話も「アンナ・ハイビスカスはアフリカの女の子です」で始まること。アフリカといっても多様なので、ここはナイジェリア、あるいは西アフリカという言葉を出したほうがよかったのではないだろうか。

    イヤー オブ ノー レイン:内戦のスーダンを生きのびて

    アリス・ミード作 横手美紀訳
    すずき出版/ 2005年/ スーダン/ 小学校高学年から/ 221p

    11歳のステファンの住むスーダン南部の小さな村では、もう3年も雨が降らず、畑は干からびてしまった。スーダンでは内戦が15年も続き、父親は兵士として村を出たきり帰らない。それでもステファンは明るく暮らしていたが、ある日村が襲撃にあい、母は殺され、姉もゆくえがわからなくなってしまう。ステファンは友だち2人と一緒に、ケニアの難民キャンプをめざして歩き始める。日本の読者には想像もつかないほどの極限状況の物語だが、主人公の心情が具体的に描かれており共感をもって読める。子どもが自発的に手をのばしそうな装丁ではないが、アフリカの現状に目を向ける糸口として読んでほしい本。

    カマキリと月:南アフリカの八つのお話

    マーグリート・ポーランド作 さくまゆみこ訳
    福音館書店/ 福音館文庫/ 2004年/ 南アフリカ/ 小学校高学年から/ 273p

    動物を主人公にした8つの物語。南アフリカに古くから住み、自然と調和しながら暮らしてきたサン、コーサなどの人々の世界観や物の見方をよりどころに書かれている。月を捕まえようとするカマキリの話、人間がつくりだしたダムのせいですみかを追われたカワウソの話など、読み進むうちに読者はアフリカのブッシュやサバンナの中に入り込み、動物たちと一緒に物語の世界を楽しむことができる。動物たちを通して描かれた愛や友情、他者に対するやさしさは心の地平線を広げてくれる。物語を楽しみながら、大地や自然を守ることの大切さを感じとってほしい。文庫に入り、装丁がやや地味になったが、文章は子どもにも読みやすい。単行本初版は1988年。

    君の話をきかせてアーメル

    ニキ・コーンウェル作  渋谷弘子訳 中山成子絵
    文研出版/ 2016年/ ルワンダ/ 小学校高学年から/ 143p

    クリストフが難民としてルワンダからイギリスにきて4年経った。中学生になった彼のクラスに、コンゴ民主共和国からアーメルが転校して来た。アーメルは最初からクリストフに反感を持っているようで、ある日、クリストフを突き飛ばし「イニェンジ」と吐き捨てるように言う。それがきっかけでクリストフは、アーメルの行動がツチ人とフツ人の内戦が原因であることを知る。数週間後、大げんかの末にアーメルがケガをしたが、治療をした医師がクリストフの父だったことから、アーメルの誤解や、かたくなな心がほどけていく。「訳者あとがき」でルワンダを巡る歴史的な事情が分かりやすく説明されており、内戦や難民について考えさせられる。『お話きかせてクリストフ』の続編。

    幸せの器

    おおきぜんた作
    偕成社/ 2010年/ ケニア/ 小学校高学年から/ 238p

    ケニアのスラムで生きる少年たちを主人公にした小説。ケニア山のふもとの小さな村で生まれた少年アイザックは、12歳で両親を亡くし、兄や姉と別れ、ナイロビのスラムへやってくる。ところが頼りにしていたおばは、自分たちのことで精一杯で、アイザックにかまう余裕がない。学校にも行けず、かといって仕事もなく、食べるものも満足にない生活……。つらい毎日を過ごすアイザックだったが、スカベンジャー(ゴミ拾い)として自活する年上の少年サミーと出会ったことで、徐々にスラムで生きていく知恵を身につけ、自分の人生を取りもどしていく。著者はケニア在住の詩人。きびしい環境の中で、力強く生きる少年たちの姿を、生き生きと描いている。

    白いキリンを追って

    ローレン・セントジョン作 さくまゆみこ訳
    あすなろ書房/ 2007年/ 南アフリカ/ 小学校高学年から/ 247p

    火事で両親を失い、突然イギリスからケープタウンの鳥獣保護区の祖母のもとに行って暮らすことになった11歳の少女マーティーン。祖母にあまり歓迎されていないのを感じ、学校にもなじめないマーティーンは、やがて白い不思議なキリンと出会い、そこから今まで知らなかった自分を発見し、思わぬ事件に巻きこまれていく。謎ときのおもしろさがあるストーリーにひきつけられながら、読者はマーティーンと視線を合わせて、南アフリカの未知の世界の冒険を楽しめる。ジンバブウェで育った著者が敬意をもって描く風景や、野生動物と人とのかかわり、まじない師を含む人々の暮らしぶりなどがリアルで興味深い。

    砂の上のイルカ

    ローレン・セントジョン作 さくまゆみこ訳
    あすなろ書房/ 2013年/ 南アフリカ、モザンビーク/ 小学校高学年から/ 331p

    マーティーンは両親を失いイギリスから南アフリカに来た少女。海洋生物を観察する遠足に参加したが、嵐の夜に船から落ちてしまう。他の6人の生徒とともに漂着したのは、モザンビーク沖の無人島。そこではイルカの生命をおびやかすソナー実験が行われ、金儲けを企む一味が暗躍していた。マーティーンは力を合わせて悪者と戦ううちに、それまで反目していたクラスメートとも心が通う。スリリングな物語展開の中で、主人公の成長だけでなく、野生生物保護、観光開発、大自然の力、科学で解明できない不思議な能力の存在など、多くのテーマが描き出される。『白いキリンを追って』の続編。

    『ソフィーの秘密』表紙

    ソフィーの秘密

    ニキ・コーンウェル作 渋谷弘子訳 中山成子絵
    文研出版/ 2021年/ ルワンダ/ 小学校高学年から/ 224p

    ルワンダの内戦から8年。イギリスに来て6年経ったクリストフは14歳になったが、内戦でフツに襲われた体験を今も忘れられない。そこへルワンダから同い年のいとこソフィーがやってきた。彼女は母親の死後、身を寄せていたフツの過激派女性の影響でツチに対して反感を抱いている。その上父親がジェノサイドで加害者として自分の村のツチ人たちを殺害したという秘密も抱えている。かつてツチに恨みを持っていた級友もいる。それぞれが複雑な立場や思いの中で自分と周囲の人を見つめ、憎しみを超えて一人のルワンダ人として生きる道を見つけていく物語。最終章「メリック先生の資料」にルワンダの歴史が書かれ、読者の理解を助ける。クリストフの物語3部作の最終巻。

    ゾウの王パパ・テンボ

    エリック・キャンベル作 さくまゆみこ訳
    徳間書店/ 2000年/ タンザニア/ 小学校高学年から/ 246p

    象牙の密輸をめぐる闘いを描く。50年前密猟者によって母親や仲間を殺され、その後群れの精神的支えとなっているゾウ、パパ・テンボと、その時パパ・テンボに足を潰され復讐の憎悪を燃やし続ける密猟者ヴァン・デル・ヴェル。密猟を食い止めに来たハイラム。ゾウの調査をする科学者とその娘のアリソン。それぞれの立場から物語が展開し、謎解きのように進んでいく。4者がそろうラストシーンの迫力は秀逸。ゾウの生態やリーダーの存在、子育ての様子とともに、アフリカのサバンナで象牙をめぐりどれほど残虐なことが起きているかも克明に描かれている。そこに日本も深く関わっていることも、後書きで押さえられている。

    ぞうのはなは なぜながい

    キプリング原作 寺村輝夫文 長新太絵
    集英社/ 2009年/ 小学校低学年から/ 72p

    大昔、ゾウの鼻が短かった頃の話。知りたがりやの子ゾウは、出会う動物に、答えようのないことばかり聞いて歩く。ある日「ワニは何を食べるの?」と聞くが、みんなは「だまれっ!」と言うだけだった。子ゾウはどうしてもそれが知りたくて、はるばるリンポポ川までワニを探しに行く。川でワニに会ってたずねたところが、鼻先に食いつかれ、鼻が長く伸びてしまう。それ以来、ゾウは便利な長い鼻を手に入れたという物語。文章はリズミカルで、次々に登場する動物と子ゾウの珍妙な問答が続く。明るくユーモラスな絵とともに、文字にも工夫があり、自分で読む子どもでも飽きずに読める。ノーベル賞作家キプリングの短編集「なぜなぜ物語」の中の1編。

    表紙画像

    ただいま! マラング村:タンザニアの男の子のお話(2刷以降)

    ハンナ・ショット作 佐々木田鶴子訳 齋藤木綿子絵
    徳間書店/ 2013年/ タンザニア/ 小学校中学年から/ 152p

    父さんが病気でなくなり、母さんが家を出ていったので、ツソと兄さんは、おばさんの家に引き取られた。けれど食べ物は少ししかもらえず、邪険にされるばかり。とうとうふたりは、夜中に家出をしてしまう。途中、ツソは町中で兄さんとはぐれ、路上で生活することに……。ストリートチルドレンとして暮らしていた男の子が、ドイツからの援助で作られた寄宿学校に入った後、村を訪れて兄さんと再会した実話がもとになっている。路上生活の心細さや厳しさが幼い子どもの目で描かれ、心引きつけられる。2刷からは、スワヒリ語の訳語の間違いや地理的な表現も修正され、わかりやすくなっている。

    『ちいさなハンター チーター』表紙

    ちいさなハンター:どうぶつのかぞく チーター

    佐藤まどか作 あべ弘士絵 今泉忠明監修
    講談社/ どうぶつのかぞく/ 2019年/ ナミビア/ 小学校低学年から/ 80p

    ナミビア砂漠に近いサバンナにすむチーターのお母さんは、子ども4匹を育てるために毎日狩りに出かけていく。メスの子どもは狩りの見習いとしてついていくのに、オスの3匹は遊んでいるばかりで、獲物をしとめたと見るや、食べにかけよるだけ。けれども、食べている途中にハイエナやハゲタカに横取りされてしまうこともしばしばだ。世界一足の速いチーターであっても長くは走れないし、アゴが小さく、力も弱い。図鑑にあるかっこいい狩りの写真からはわからない、実際のチーターの姿が末っ子の目線で語られる。挿絵からは動物たちの息づかいが聞こえてくるようだ。巻末にチーターについての解説がある。

    チョコレートと青い空

    堀米薫作 小泉るみ子絵
    そうえん社/ 2011 年/ ガーナ/ 小学校中学年から/ 175p

    小学5年生の周二の家へ、ガーナからの農業研修生エリックがホームステイに訪れる。日本の農業技術への好奇心とガーナへの愛に輝くエリックに惹かれる周二。エリックを通して周二は、カカオ畑で働かされながら貧しくてチョコレートを食べられないガーナの子どもたちの存在を知り、また思いがけず、農業と向き合う父の姿勢や後継者問題に悩む兄の想いを知る。異文化交流によって世界を拡げるにとどまらず、自身の足下みつめ「誇り」を獲得する主人公に寄り添うことで、読者も共に「無関心が最大の敵」であることを学ぶだろう。エリックがとてもチャーミングに描かれており、各国の農業研修生と交流を重ねてきたという著者の実直さが清々しい。

    沈黙のはてに

    アラン・ストラットン作 さくまゆみこ訳
    あすなろ書房/ 2006年/ 南部アフリカ/ 中学生から/ 352p

    16歳の少女チャンダが主人公のYA小説。舞台はアフリカ南部の、とある国。そこではエイズという言葉はタブーであり、HIVに感染することは恥ずかしいこととされていた。偏見のせいで正しい知識が得られないため、予防ができず、さらに感染が広まってしまう。チャンダは義父、妹、そして最愛の母をもエイズで亡くしてしまうが、過酷な状況にあっても、強い意志と行動力で沈黙のタブーをやぶり、周囲の人たちをも変えていく。今、世界中で大きな問題となっているHIV/エイズ。この本を読んで、アフリカの現状を知るとともに、日本の現状についても考えてみてはどうだろうか。日本は先進国で唯一、HIV感染者が増えている国なのだ。

    ネコのタクシー アフリカへ行く

    南部和也作 さとうあや絵 
    福音館書店/ 2004年/ 小学校低学年から/ 221p

    ロンドンでネコ専用タクシーを営むネコのトムが、ひょんなことからアフリカのサルの王に招待され、飼い主のランスさんといっしょに旅に出ることになる。船に乗って海を渡り、川や草原で様々な動物たちに助けられながら、サルの王国ゴロンゴロン高原へ。サルの王に会い、タクシーとはどんなものかを教えたり、人間と動物の関係について語りあったりする冒険物語。実在の場所が出てくるわけではないが、小学低〜中学年の子どもたちがアフリカの大地に思いを馳せ、想像力を広げるのに一役買ってくれそうな1冊。おおらかな挿絵が、とぼけた味わいのお話によく合っている。『ネコのタクシー』の続編。

    走れ! マスワラ

    グザウィエ=ローラン・プティ著 浜辺貴絵訳
    PHP 研究所/ 2011 年/ ケニア/ 小学校高学年から/ 160p

    2004 年ケニアのナイロビマラソンで優勝したチラボン選手をモデルに書かれた創作物語。9歳のシサンダは農村に住む心臓の悪い少女。偶然拾った新聞で、あるマラソン大会で1等をとると150万ケルの賞金が出ることを知る。スワラの名を持ち、ママ・スワラを縮めてマスワラと呼ばれる、シサンダの母親が困難を乗り越えてマラソンに出場する……。シサンダによりそって読み進めるうちに、暮らしの知恵と教育、祖先への祈りと医療、裸足と靴など、二つの世界の間で生きていく人々の姿が見えてくる。スワヒリ語に基づいたと思われる土地の言葉が効果的に挿入されている。

    ヘブンショップ

    デボラ・エリス作 さくまゆみこ訳
    すずき出版/ 2006年/ マラウイ/ 小学校高学年から/ 277p

    マラウイ最大の都市に住むビンティは、私立の女子校に通い、啓蒙的なラジオドラマに出演している13歳の少女。その順調な日々が、父のエイズ死をきっかけに暗転する。おじの元で働かされ、HIVへの偏見にさらされる状況に陥り、姉はそこから逃げ出すが、ビンティはひとり祖母の村へと向かう。祖母は、エイズから目をそらさず、村の孤児たちを引きとって教育を受けさせるなど、人々の信頼を集める人物だった。つらい現実に打ちひしがれていたビンティだったが、まわりの人々に助けられながら生活に希望を見出していく。少女の内面の成長を描きつつ、マラウイの社会状況やHIVをめぐる現実についても、綿密な取材に基づいてわかりやすく書いている。

    炎の鎖をつないで:南アフリカの子どもたち

    ビヴァリー・ナイドゥー作 さくまゆみこ訳
    偕成社/ 1997年/ 南アフリカ/ 小学校高学年から/ 310p

    南アフリカで行われていたアパルトヘイトの実態を15歳の少女の目を通して描いている。生まれ育った土地から不毛の地へ強制移住を命じられた村の人々の反応、抗議に立ち上がった子どもたちへの仕打ち……。リアルな描写に胸がつぶれる。アパルトヘイトについて史料的な本はあるが、その中で人々がどのように思い、行動し始めるようになったのか、その揺れる心持ちを知るにはこのような小説を手に取るのが一番だと思う。歴史的事実の裏には、必ず無名の多くの人の思いがあふれているのだということを本書は教えてくれるだろう。原書は古い(1989年)が、訳者後書きでそれ以降の南アフリカの状況を補足している。

    炎の秘密

    へニング・マンケル作 オスターグレン晴子訳
    講談社/ 2001年/ モザンビーク/ 中学生から/ 216p

    モザンビークの12歳の少女ソフィアを主人公とした、絶望と再生の物語。盗賊に村を焼かれ、父親を殺されたソフィアは、母親、姉弟とともに命からがら逃げ出す。歩き続けてひとつの村にようやく落ち着いた矢先、今度は地雷を踏んでしまう。姉は亡くなり、ソフィアは両足を切断。何度も孤独と絶望に陥りながらも自分自身を見失わず、必死に学び努力して仕事と家を手に入れて生きていく。モザンビーク在住のスウェーデン人作家が、実際に出会った少女をモデルに書いた小説。貧困や地雷など、この国の人々が直面する問題が迫ってくるとともに、少女が過酷な状況を懸命に生き抜き、自立していく姿に勇気づけられる。

    ぼくの心は炎に焼かれる:植民地のふたりの少年

    ビヴァリー・ナイドゥー作 野沢佳織訳
    徳間書店/ 2024年/ ケニア/ 小学校高学年から/ 232p

    1950年代、植民地政府統治下のケニア。土地を奪った白人の子孫である11歳の少年マシューと、使用人として仕える13歳の黒人の少年ムゴの信頼関係の変化をとおして、大人社会のシステムや暴力によって子どもの日常が破壊されていく様子を描いている。幼いころ無邪気に育んでいた友情は、白人移住者への抵抗闘争「マウマウ」が広がる社会のうねりを背景に、きしみ始める。ケニア山麓のキクユ人地域に焦点をあて、ケニア独立以前の歴史の1ページを、2人の少年の視点から描く。これまでの価値観から抜け出せないマシューと、子ども時代を否応なく卒業して社会の荒波をもろにかぶらざるをえないムゴが対比され、ムゴの怒りと悲しみが心に残る。

    ぼくはアフリカにすむキリンといいます

    岩佐めぐみ作 高畠純絵 
    偕成社/ 2001年/ 小学校中学年から/ 101p

    アフリカの草原に住むたいくつなキリンは、たいくつなペリカンが郵便配達を始めたのを知り、地平線のむこうで最初に会った動物にあてた手紙を託す。地平線がつきたところにある大海原で、その手紙を受けとったのはペンギン。そこから、キリンとペンギンのたどたどしい文通が始まる。おたがいの姿かたちを知らない2者が、手紙の文章から、見当違いの姿で相手を想像するのが愉快で、文通のゆくえを知りたくなる。とぼけた味わいの挿絵や、書き文字を用いた手紙が物語と一体となり、親しみやすく、読みやすい。アフリカが身近になる物語。

    ボノボとともに:密林の闇をこえて

    エリオット・シュレーファー作 ふなとよし子訳
    福音館書店/ 2016年/ コンゴ民主共和国/ 中学生から/ 400p

    夏休み、アメリカからやってきたソフィーは、離婚した母が運営する類人猿ボノボの保護センターで過ごしていた。密猟され、市場で売られていたボノボの子を見つけ、買い取ったソフィーは、その子をオットーと名付け、センターで世話をする。もうすぐ帰国という日、内戦が勃発し混乱する中、センターも襲われ、ソフィーはたった一人でボノボたちとともにジャングルへ逃げこんだ・・・。ボノボとの暮らしや川下りの旅、反乱兵との戦闘など、圧倒的な臨場感を持って描かれるのだが、実際のコンゴ内戦の事実とは違う場面も多く、現実と混同しないよう気をつけることが大事。絶滅が危惧されるボノボの生態や自然保護、国の安定とは?と、現代の抱える問題に目が開かれる社会派サバイバル・ストーリー。

    魔法の泉への道

    リンダ・スー・パーク著 金 利光訳
    あすなろ書房/ 2011年/ スーダン/ 中学生から/ 151p

    1985 年、スーダン内戦で故郷を追われた少年サルヴァと、2008 年、家族のための水汲みで1日が終わってしまう少女ナーヤの物語が交互に語られていく。サルヴァの物語は苦難の連続だ。家族とも生き別れ、ナイル川をわたり、砂漠を徒歩で越え、苦しい難民生活を経て、アメリカに移り住んだサルヴァは、故郷のためにできることを必死で考える。それはやがて、水のない土地で過酷な日常をおくるナーヤを救うことになるのだった。本書はサルヴァ・ドットによる実体験をもとに書かれた。サルヴァは現在アメリカで「スーダンに水を」というプロジェクトを推進し、南スーダンに数十もの井戸を掘っている。

    ミサゴのくる谷

    ジル・ルイス作 さくまゆみこ訳
    評論社/ 2013年/ ガンビア/ 小学校高学年から/ 278p

    スコットランドの農場に巣を作った野生のミサゴ。往復12.000キロの渡りをするその鳥をアイリスと名づけた少女と農場の少年カラムが出会い、物語は始まる。ジブラルタル海峡を超えはるかアフリカ大陸まで渡っていくアイリスのルートを発信器でたどるカラム。ついに西アフリカのガンビアに着いたアイリスだが信号の動きが止まる。消息を尋ねるカラムの電子メールに応え、ミサゴ探しに協力したのはガンビアに住む入院中の少女だった……。ミサゴのきびしい渡りを縦糸に、カラムの家族、友だち、野生生物保護官、ガンビアの少女などが織りなす人間模様を通して、自然保護の問題、異文化との出会いの素晴らしさを描くさわやかな物語。

    みんながそろう日:モロッコの風のなかで

    ヨーケ・ファン・レーウェン&マリカ・ブライン作 野坂悦子訳
    すずき出版/ 2009年/ モロッコ/ 小学校高学年から/ 277p

    モロッコの女性マリカ・ブラインの実体験を元にオランダの作家ファン・レーウェンが書いた作品。1960〜70年代、カサブランカでは、学生や市民の抗議行動が頻発していた。そんな不安定な社会情勢の中、主人公の少女ジマは、貧しいながら愛情あふれる家で育つ。ある日、町で学生運動をした容疑で兄が投獄される。家族は自分たちも逮捕される危険を感じながら、差し入れや面会をし、できる限り兄を支える。病弱な母を助ける間に、幼かったジマも、家族の力になるまでに成長していく。できごとは悲痛だが、少女の感性で語られることで、さわやかな物語になっている。正義を貫くことの意義、家族愛の大切さだけでなく、モロッコの暮らしや事情を垣間見ることもできる。

    表紙画像

    闇のダイヤモンド

    キャロライン・B・クーニー作 武富博子訳
    評論社/ 海外ミステリー BOX/ 2011 年/ 中学生から/ 340p

    2008 年エドガー・アラン・ポー賞候補作のミステリー。あるアメリカの家族が、アフリカ難民一家を寄留させることになる。しぶしぶ受け入れる少年ジャレッド、環境の違いにとまどう難民たち、彼らを追う謎のアフリカ人など、物語はそれぞれの視点から語られ、スリリングに展開する。母親は難民一家にアメリカの生活を教えようと張り切り、妹はアフリカの少女との同居を喜ぶ。だがジャレッドは、彼らの行動に不審を抱く。秘密が暴かれる道筋で、難民、内戦、少年兵、紛争ダイヤモンド、さらにアメリカ側の問題も読者に次々に投げかけられる。初めは反発しあったアフリカとアメリカの少年少女が、危険が迫るにつれ力を合わせ、敵に立ち向かう結末は圧巻だ。

    『雪山のエンジェル』表紙

    雪山のエンジェル

    ローレン・セントジョン作 さくまゆみこ訳
    評論社/ 2020年/ ケニア/ 小学校高学年から/ 251p

    主人公マケナは、山岳ガイドの父親の影響で、山登りが大好きなケニアの少女。教師の母親と親子3人幸せに暮らしていたが、両親が突然エボラ出血熱に感染し亡くなってしまう。引き取られた親戚の家になじめず逃げ出したマケナは、ナイロビのスラム街にたどり着く。そこで出会ったアルビノの少女スノウとともに、困難を乗り越え希望をもって生き抜こうとするのだが……。マケナに危機が迫ると銀色のキツネが現れ、幻とも現実ともつかない不思議な趣を添える。エイズやエボラで孤児になるアフリカの子どもたちは多く、ジンバブエで生まれ動物保護区で育った作者は、そうした「忘れられた子どもたち」と幻想的な動物との出会いの物語を紡いでいる。

    『ライオンと歩いた少年』表紙

    ライオンと歩いた少年

    エリック・キャンベル作 さくまゆみこ訳
    徳間書店/ 1996年/ タンザニア/ 小学校高学年から/ 229p

    イギリスで暮らす少年が父親の仕事の都合で突然アフリカのタンザニアへ行くことになる。目的地に向かう途中軽飛行機がハゲワシの群れに突っ込み墜落してしまい、パイロットと父は重傷を負う。軽傷ですんだ少年は1人で助けを呼びに行こうとするが、そこはライオンの群れなど様々な野生動物が暮らすサバンナ。飛行機という現代文明を象徴するものが失われたことで大自然の中に放り出された少年は、一瞬老ライオンと目と目を合わせ、心を通わせる。死期を迎えた老ライオンと、生きようとする少年との魂の交流を通し、人間も動物も同じ自然の一部なのだということが感じられるように描いている。

    ライオンとであった少女

    バーリー・ドハティ作 斉藤倫子訳 
    主婦の友社/ 2010年/ タンザニア/ 中学生から/ 288p

    両親をエイズで失い、叔父の計略により偽造パスポートでイギリスに送られたタンザニアの少女アベラと、母親に養子を迎えたいと言われ、不信と不安を抱くようになったイギリス人の少女ローザ。別々の境遇で悩む2人の少女が、やがて出会うこととなる。2人の語りを巧みに用いた展開で、読者は主人公に寄り添いながら物語にひきこまれ、貧困、エイズ、孤児、割礼、人身売買、児童虐待、不法入国、異国の暮らし、養子縁組など、今のアフリカやイギリスのかかえるさまざまな問題を知ることとなる。希望のある安心した子ども時代を送ることのできないアベラのような子どもは、アフリカに、そして世界にどのくらいいるのだろうか。

    リトル・ソルジャー

    バーナード・アシュリー作 さくまゆみこ訳
    ポプラ社/ 2005年/ 小学校高学年から/ 303p

    政府軍に家族を皆殺しにされ、反乱軍の少年兵になったカニンダ。不本意にも慈善団体に保護され、アフリカからロンドンの裕福な里親に引き取られるが、故郷に帰って敵の氏族を殺すことだけを願い続けている。凄惨な記憶がくり返しフラッシュバックされ、カニンダの憎悪と殺意がひしひしと伝わってくる。対立するロンドンの少年グループ、憎き敵の氏族の転入生、罪の意識に押しつぶされそうな里親の娘ローラ……だれもが一触即発の状態で、緊迫感があり先を読まずにはいられない。著者はイギリスYA小説の名手。都会のティーンエイジャーの葛藤とともに、少年兵の心の深い傷が伝わり、リアルな問題として考えさせられる。

    路上のストライカー

    マイケル・ウィリアムズ著 さくまゆみこ訳
    岩波書店/ STAMP BOOKS/ 2013年/ ジンバブエ、南アフリカ/ 中学生から/ 272p

    故郷ジンバブエでの虐殺を奇跡的に生きのびた14歳の少年デオとその兄イノセント。時に発作を起こし、時にパニックに陥る兄を守りながら、デオは南アフリカを目指す。しかし、ようやくたどり着いた南アフリカで二人を待っていたのは外国人襲撃の暴動だった。暴動に巻き込まれて兄が殺され、生きる意欲も希望も失って路上で暮らしていたデオの運命を変えたのは、ホームレスが選手となる「ストリートサッカー」の監督との偶然の出会いだった。デオは新しい人生を生き始める。 南アフリカで実際に起きた外国人襲撃事件をきっかけに書かれた作品。現代アフリカの一面が垣間見える。

    路上のヒーローたち

    エリザベス・レアード作 石谷尚子訳
    評論社/ 2008年/ エチオピア/ 中学生から/ 379p

    エチオピアのストリートチルドレンを主人公にした小説。首都アディスアベバに住む少年マモは、母の死後、誘拐されて農家に売りとばされ、過酷な労働をしいられる。一方、ダニエルは裕福な家で何不自由ない暮らしをしていたが、父親の無理解とプレッシャーに苦しみ、家出をする。命からがら逃げだしたマモと、途方に暮れていたダニエル。なんの接点もない2人が出会って、生きるためにギャングの仲間に入った。身を寄せて支えあい、知恵と勇気を身につけ、やがてそれぞれの道を進んでいく子どもたち……。作者は実際に路上でくらす少年たちを取材して、いくつかの実話をもとにこの物語を書いた。さわやかな読後感と希望を残す。