アパルトヘイト問題

    シーン・コノリー著 来住道子訳 
    文溪堂/ 国際理解に役立つ世界の紛争を考える/ 2003年/ 南アフリカ/ 小学校高学年から/ 63p

    世界的に問題になっている紛争をわかりやすく解説したシリーズの1冊。1994年に全面廃止された南アフリカの「アパルトヘイト問題」を取り上げ、その歴史的背景や経緯、そして南アフリカのその後の動きなどを写真をまじえて紹介している。文章量が比較的多いが、ポイントとなる部分には印をつけ、要点がまとめてあるので読みやすい。アパルトヘイト問題を理解する最初のステップとしてすすめたい。原著は2000年の刊行なので、その後の情報は更新されていないため、21世紀になってからの南アフリカの状況には触れられていない。索引あり。

    アフリカ 子どもたちの日々:田沼武能写真集

    田沼武能著  
    ネット武蔵野/ 2008年/ 小学校低学年から/ 108p

    世界中の子どもたちの撮影を生涯のテーマとして活動している著者が、アフリカの子どもの日常を撮った写真集。満面の笑顔で遊び、真剣に勉強し、得意げに家事を手伝う子どもたちの、生き生きとした表情が印象的。ページをめくると、アフリカの子どもたちにも、世界のどことも変わらない日常があるという当然のことに気づかされる。同時に、飢えや病気、内戦に苦しむ子どもたちの姿も目に飛びこんでくる。全ページモノクロだが、写真から伝わってくる力は、色彩をおびないことで逆に物語性を増し、読者の心に染みこむように響く。アフリカの希望と現実の狭間に生きる子どもたちの姿を伝えてくれる。

    アフリカのいまを知ろう

    山田肖子編著  
    岩波書店/ 岩波ジュニア新書/ 2008年/ 中学生から/ 248p

    いろいろな形でアフリカに関わっている日本人研究者11人へのインタビュー集。アフリカの歴史と現況、問題点などを第1章で概観したあと、第2章では各人の研究分野に応じて、アフリカ経済史から農学、国際協力、援助、言語文化、文化人類学、アフリカでの手話、医療、音楽など、幅広い分野の話題をとりあげる。テーマは各項目ごとに完結しているので、目次を見て興味を持つ箇所が見つかれば、どこからでも読み始められる。対話形式で語られ、理解を助ける写真も添えられているので、読みやすい。巻末には、さらに深く知るための資料リストと、この本の基となったインタビューの全文を掲載したウエブサイトの紹介もついている。

    エイズ:とめよう世界に広がる病

    高橋央ほか著  
    ポプラ社/ 21世紀の平和を考えるシリーズ/ 2003年/ 小学校高学年から/ 45p

    エイズに関する基礎的な知識をわかりやすく解説した本。エイズ孤児になったザンビアの少女を紹介し、エイズとはどんな病気か、HIVはどのように感染するかを解説するほか、世界の感染者数、アフリカにエイズが多い理由、若い人に多い理由、感染を減らす方法、HIV検査、エイズが及ぼす影響などにも触れる。各項目の要旨を小見出しにしたり、「もっと知りたい」マークをつけるなど、調べ学習の便宜をはかっている。カラー写真、イラストを使った見やすいレイアウト。内容はごく基本的な知識にとどまるので、第1段階の参考書として位置づけられる。分布図やグラフもあるが、数字は常に新しくなるので定期的な改訂が望まれる。索引あり。

    HIV/エイズとともに生きる子どもたち ケニア:あなたのたいせつなものはなんですか?

    山本敏晴著・写真  
    小学館/ 2009年/ ケニア/ 小学校高学年から/ 絵本

    医師であり、世界の国々を見ている著者が、ケニアでHIVに感染する子どもたちに「あなたのたいせつなものはなんですか?」とたずね、その答えをポートレートとともにまとめた写真絵本。「くすり」「この国、ケニア」「病院」「医師になること」「教会」「家」「川」……などという答えの後に、現在ケニアではどういう活動が進められているかなど、ケニアの国やHIV対策の現状を綴った文章が続く。巻末には世界と日本のHIVの現状、私たちはどういう活動をしていけばいいのか、専門家は今なにをしているのか、という考察もついている。途上国共通の状況へとつながる視点もあり、英文が併記され、広く手に取ってもらえるよう工夫されている。

    『オマルとハッサン』表紙

    オマルとハッサン:4歳で難民になったぼくと弟の15年

    ヴィクトリア・ジェスミン作 オマル・モハメド原案 イアン・ゲディ彩色 中山弘子訳 滝澤三郎監修
    合同出版/ 2021年/ ソマリア、ケニア/ 中学生から/ 264p

    ソマリア出身の兄弟オマルとハッサンは、紛争で母親とはぐれて国外に逃げ、今はケニアの難民キャンプで暮らしている。オマルが、障害のある弟ハッサンを常にいたわりながら11歳で学校に通い始め、苦労して勉強を続け、アメリカ合衆国に住むことになるまでを、実話をもとに描いたグラフィックノベル。オマルの気持に寄り添って読んでいくうち、ソマリアの紛争の恐ろしさ、食べ物や学校や遊びなど、難民キャンプの暮らしぶり、子どもや大人の悩みや希望、支援の実態を知ることができ、絵によって情景が具体的にわかる。巻末にオマル自身による解説とその後の写真、作者の言葉があり、背景の理解をさらに深められる。

    学校に行けないはたらく子どもたち1 アフリカ

    田沼武能著・写真  
    汐文社/ 2004年/ 小学校中学年から/ 絵本

    アフリカ各地で働いている子どもたちをリアルな写真で紹介している。水くみ、洗濯、家畜の世話、農作業、薪割り、食事の準備、子守り、掃除といった家事手伝いだけでなく、一人前の稼ぎ手として工場で働いたり、売り子として魚や野菜やサンダルや衣類などを売る子どもたちも登場する。働くのは悪いことではないけれど、問題は、この子たちが学校へ行けないので、今の暮らしから抜け出す手がかりをつかめないこと。巻末には、アフリカの経済や政治、医療や教育についての解説も載っている。世界に1億2000万人もいるという児童労働者の様子を伝えるシリーズ(他はアジア・オセアニア、中南米、中東・北アフリカ)の1冊目。

    学校に行けないはたらく子どもたち4 中東・北アフリカ

    田沼武能著・写真  
    汐文社/ 2004年/ 北アフリカ/ 小学校中学年から/ 絵本

    世界に1億2000万人もいるという児童労働者の様子を伝えるシリーズの4巻目。1巻目の「アフリカ」で紹介していない「北アフリカ」の働く子どもたちを取り上げている。写真は中東の子どもたちが主で、エジプトとモロッコのものが数枚あるだけだが、レストランの給仕、観光客用のラクダ使い、伝統工芸の修行などに打ち込む少年たちの姿が印象的にとらえられている。巻末にはこの地域の政治、経済、歴史、文化、教育水準などがわかりやすく解説されており、中東諸国と深い関わりがあり、アラブ文化の影響が強い北アフリカについて基礎的な知識が得られる。

    飢餓:くりかえされる苦しみからの脱出

    国連世界食糧計画著  
    ポプラ社/ 21世紀の平和を考えるシリーズ/ 2003年/ 小学校高学年から/ 45p

    飢餓はなぜ起こるのか? その原因と人々に及ぼす影響をわかりやすく解説した本。アフリカやアジアで飢餓に苦しむ人々の暮らしを紹介し、自然災害、人口増加、人口の都市集中、輸出作物と食料農産物のアンバランス、内戦・紛争などの原因に触れ、世界的な視点から飢餓を防ぐにはどうしたらいいかを考えさせる。各項目の要旨を小見出しにしたり、「もっと知りたい」マークをつけるなど、調べ学習の便宜をはかっている。カラー写真、イラストを使った見やすいレイアウト。シリーズを通して世界の人々の人権と子どもたちの人権について学び、読者が同じ地球の仲間として何ができるかを紹介する。分布図やグラフなどの数字は定期的な改訂が必要。索引あり。

    希望のダンス:エイズで親をなくしたウガンダの子どもたち

    渋谷敦志 写真・文 デズモンド・T・ベル 英文翻訳
    学研教育出版/ 2015年/ ウガンダ/ 小学校中学年から/ 63p

    ウガンダの孤児施設を取材した写真絵本。2001年設立のNGO「あしながウガンダ」では、学校に行けない子どもたちにTerakoya(寺子屋)で読み書きや計算を教える活動をしている。けれど、ここで学べる子は恵まれた方で、都会には路上で物乞いをして暮らす子どもたち、農村地帯にもエイズで家族を失った子どもが大勢いる。そんな厳しい実態を踏まえながら、Terakoyaでの子どもたちのようすを紹介する。支援を受けるばかりの子どもたちが、学ぶ機会を得て変わり始める。そのきっかけがダンスだった。社会の最底辺であえぐ子どもたちの表情、そして、それと対照的に身体の中からあふれ出す喜びと躍動感をとらえた写真は感動的だ。英文併記。

    子ども兵士:銃をもたされる子どもたち

    アムネスティ・インターナショナル日本編著  
    リブリオ出版/ 世界の子どもたちは今/ 2008年/ コンゴ民主共和国、ウガンダ/ 中学生から/ 125p

    現在世界には、強制的に武力紛争に参加させられる子ども兵士が少なくとも30万人いるといわれ、その数はアフリカ地域に最も多い。アフリカ中部で取材を続けるフォトジャーナリスト下村靖樹氏の報告に始まり、主にコンゴ民主共和国とウガンダの実例を紹介しながら、世界の子ども兵士の実情とその背景、さらに今後の各国の取り組みについて解説する。子ども兵士の表情をとらえた写真や、子ども自身の言葉で語る証言の数々が紹介され、文章も読みやすい。同じシリーズに『児童労働 働かされる子どもたち』『子どもの人身売買 売られる子どもたち』があり、アフリカの例も一部紹介されているので、関心のある人はあわせて読んでほしい。

    シエラレオネ:5歳まで生きられない子どもたち

    山本敏晴著・写真  
    アートン/ 2003年/ シエラレオネ/ 小学校高学年から/ 70p

    シエラレオネでは5歳になるまでに3人に1人の子どもが死んでいくと言われている。それはなぜか? 著者は国境なき医師団の1員としてシエラレオネに派遣された経験をもち、写真とわかりやすい文章で、子どもたちの置かれた状況や国際協力の方法、実際の活動やその考え方について紹介している。1961年にイギリスから独立した、北海道ほどの大きさしかないこの小さな国では、ダイヤモンドが採れる。それをねらって次々に争いが起こり、医者や看護師も国外へ逃げ出してしまった。内戦で家を失ったり、栄養失調になったり、マラリアにかかったりする子どもたちも多い。生命の重さ、事実を知ることの大切さを伝える本。

    世界の半分が飢えるのはなぜ?:ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実

    ジャン・ジグレール著 たおかまゆみ訳 
    合同出版/ 2003年/ 中学生から/ 182p

    世界には毎日お腹いっぱい食べられ、食料が有り余る国がある一方で、いつも飢えに苦しむ人々が暮らす国がある。世界からなぜ飢えがなくならないのか、どうしたら飢えをなくすことができるのか、という難しい問題について、父(社会学者の著者)が子どもに答えるという形ででわかりやすく考察している。アフリカを中心にアジア、南米などの事例を紹介しながら、政治腐敗、経済の支配、戦争、環境破壊などによって飢餓が起こることが浮かび上がる。なかなか見えにくい世界の本当の姿に「飢え」という切り口から光をあて、すべての人が人間らしく生き、食べることができるような公正な世界の実現を呼びかけている。

    戦場から生きのびて:ぼくは少年兵士だった

    イシメール・ベア著 忠平美幸訳 
    河出書房新社/ 2008年/ シエラレオネ/ 中学生から/ 338p

    シエラレオネに生まれ、12歳で内戦に巻き込まれて少年兵士となった著者の回想録。反乱軍から逃げる間に家族や友人と離別し、苦難の旅の末たどりついたのは政府軍のテントだった。そこは安住の地と思え、銃とマリファナをあたえられて殺戮に明け暮れる。2年後ユニセフに保護されるが、戦闘のただ中にいた元少年兵士には、更生施設の生活はまがいものにしか見えない。彼は激しく反抗し、ドラッグの禁断症状にも苦しむ。やがて大好きだったヒップホップがきっかけで心を開き始めると、この体験を世界の人々に語ることが自分の使命だと自覚する。凄惨なシーンを含む衝撃的な著作ではあるが、著者の巧みな描写力と語りは、読み応えがある。

    戦争が終わっても:ぼくの出会ったリベリアの子どもたち

    高橋邦典著・写真  
    ポプラ社/ 2005年/ リベリア/ 小学校高学年から/ 55p

    リベリア共和国では政府軍と反政府軍との戦闘が14年間断続的に続いたが、2003年8月に大統領が辞任し、内戦は終わった。報道写真家の著者が、内戦中に取材で出会った子どもたちの安否を確かめるために再びリベリアを訪れ、現地の実情を写真と文章で伝えた本。少年兵として前線で殺戮に加わったモモとファヤ、反政府軍の砲弾で家族のすべてを殺された少女ギフト、爆撃で右腕を失った少女ムス。戦争が終わった今、彼らはろくな食事にもありつけず、学校にも行けない。消し去ることのできない戦闘の記憶を抱えながら、彼らの目は何を見ているのか。平和な日本の読者には衝撃的な写真もあるが、同じ時間を生きる彼らの真実から目をそらさないでほしい。

    戦争がなかったら:3人の子どもたち10年の物語

    高橋邦典 文・写真
    ポプラ社/ 2013年/ リベリア/ 小学校高学年から/ 189p

    1989年に始まったリベリア内戦が終わったのは2003年。その翌年に著者が取材し撮影した子どもたちの姿は、『戦争が終わっても』にまとめられた。本書は、その子どもたちの10年後の姿を追ったノンフィクション。著者は、戦場で偶然カメラが捉えた3人の子どもたち(少年兵だったモモとファヤ、砲弾で右手を失った少女ムス)とその後もかかわりながら、彼らの内面に寄り添い、誠実にその変化を記している。多感な時期に戦争によって可能性を奪われた3人が、10数年経ってもいやせない体や心の傷を抱えている様子が伝わる。支援のあり方が難しいことや、ほかにも同様の被害者が大勢いることについても、深く考えさせられる。

    ダイヤモンドより平和がほしい:子ども兵士・ムリアの告白

    後藤健二著  
    汐文社/ 2005年/ シエラレオネ/ 小学校高学年から/ 105p

    西アフリカのシエラレオネは、ダイヤモンドの産地であることから戦争の舞台となり、平均寿命が世界一短い国としても、子どもの兵士が多く使われたことでも、知られるようになった。ジャーナリストの著者が、シエラレオネの戦傷者キャンプや子ども兵士の保護施設を訪れ、インタビューしてまとめたノンフィクション。目の前で両親を殺されて反政府軍に入れられたムリア少年は、皮膚の下に麻薬を埋め込まれて「殺人マシーン」と化していた。でも今は、心に大きな傷を負いながらも麻薬中毒から脱し、将来は大統領になる夢までもつようになったという。被害者が、「平和のためには子ども兵士を許さなきゃ。でも忘れはしない」と語る声も重い。

    中東/北アフリカの紛争

      
    岩崎書店/ いつ・どこで・何がおきたか?国際紛争の本/ 2004年/ 北アフリカ/ 小学校高学年から/ 47p

    第二次世界大戦後から今日までの国と国との戦争や紛争、内戦等の背景について解説した本。アフリカ関連で取り上げられているのは、スーダン内戦、アルジェリア紛争、西サハラ紛争。それぞれについて、いつ、どこで、何が起こったのか、どんな背景があるのか、これからの展望はどうかを、写真とイラストを入れて見やすくしながら、説明している。最初の2つの紛争に関係するイスラム教については、別だてのコラムがあり、中東との文化的関連がよくわかる。現在進行中の紛争も取り上げられているため、定期的な改訂が望まれる。

    中部・南部アフリカの紛争

      
    岩崎書店/ いつ・どこで・何がおきたか?国際紛争の本/ 2004年/ 中部・南部アフリカ/ 小学校高学年から/ 47p

    「人種・民族・宗教をめぐる紛争」としてコンゴ内戦、ルワンダ内戦、ソマリア内戦、リベリア内戦、モザンビーク内戦が、「領土・国境・資源をめぐる紛争」としてシエラレオネ内戦とアンゴラ内戦が、「分離・独立をめぐる紛争」としてエチオピア内戦とエチオピア・エリトリア紛争が、「植民地独立をめぐる紛争」としてコンゴ動乱が取り上げられ、それ以外に国際法廷、アパルトヘイト、戦争とビジネス、子ども兵士のことがコラムとして説明されている。アフリカの内戦は新聞やテレビなどでよく報道されるが、子どもがそれについて自分で調べようとしてもほとんど資料がない。本書はそのようなときに事実を知るのに役立つ本としてすすめたい。

    表紙画像

    なんにもないけどやってみた :プラ子のアフリカボランティア日記

    栗山さやか著
    岩波書店/ 岩波ジュニア新書/ 2011年/ エチオピア他/ 中学生から/ 208p

    渋谷109 のカリスマ店員だった著者が、親友の死を契機に、人生を考え直す旅に出た。各国を放浪するうち、エチオピアの底辺の医療施設に行きつき、そこで過酷な現状を目にする。医療の専門知識も経験もないが、乞われるままに患者の世話を始め、やがて彼らの苦しみや喜びを共有するようになっていく。その体験を綴ったブログが、本書のもとになっている。患者との出会いと別れだけでなく、各国のボランティアや地元の若者との交流、悩みなどが、気負わず素直に語られる。現在著者はアシャンテママというNPO を設立し、モザンビークで教育施設を運営。人々を貧困から救うための助力をしている。その後の活動は2015年に刊行した『渋谷ギャル店員 ひとりではじめたアフリカボランティア』(金の星社)に詳しい。

    ぼくが5歳の子ども兵士だったとき:内戦のコンゴで

    ジェシカ・ディー・ハンフリーズ&ミシェル・チクワニネ作 クローディア・ダビラ絵 渋谷弘子訳
    汐文社/ 2015年/ コンゴ民主共和国/ 小学校高学年から/ 47p

    コンゴで平穏な暮らしをしていた男の子ミシェルは、5歳のとき学校から反政府軍にさらわれ、銃を持たされて人殺しをするように仕向けられる。子どもたちは、麻薬を無理にあたえられ、殺人マシンとして使われる。ある日ミシェルはすきを見て必死で逃げ出して村にもどるが、つらい日々がよみがえり、もう無邪気な子どもにはもどれない。父親は事実を知って事実をみんなに伝えようとし、そのせいで暗殺される。後にカナダに移住したミシェル自身が語るのは苛酷な体験だが、コマ割りの絵で表現されているのでわかりやすい。巻末には子ども兵士についての情報もついている。

    『ポリぶくろ、1まい、すてた』表紙

    ポリぶくろ、1まい、すてた

    ミランダ・ポール文 エリザベス・ズーノン絵 藤田千枝訳
    さ・え・ら書房/ 2019年/ ガンビア/ 小学校低学年から/ 絵本

    ガンビアの小さな村を舞台にしたリサイクルの絵本。村のゴミ捨て場にみんながぽいぽい捨てたポリ袋は、自然の素材と違ってちっとも土にかえらない。しかも、ヤギがそれを食べると死んでしまう。この様子を見て心を痛めた女性アイサト・シーセイは、なんとかしなければと考え始める。そして、女たちの仲間をつくり、ポリ袋をきれいに洗って干し、切って細長いひもにすると、次はそれをかぎ針で編んで財布をつくって市場で売ることにした。やがてみんながその財布を買うようになり、ゴミを減らしながら女たちの収入を増やすことにつながっていった。実際にあった女たち主導のプロジェクトを取り上げたノンフィクション。

    『マッドジャーマンズ』表紙

    マッドジャーマンズ:ドイツ移民物語

    ビルギット・ヴァイエ 著 山口侑紀 訳
    花伝社/ 2017年/ モザンビーク/ 中学生から/ 240p

    1970年末以降モザンビークから東ドイツに渡った労働者はおよそ2万人。共産主義政権の中、外貨獲得のために移動した彼らは、自らを「ドイツ製」=「マッドジャーマンズ」と呼ぶ。やっと西欧社会に慣れた頃、ドイツ統一のために帰国させられた彼らに東ドイツが支払った賃金の多くは、モザンビーク政府に取られてしまっていたという。幼少期をアフリカで過ごしたドイツ人女性の著者が、取材した人々の話を3人のモザンビーク人に託して物語化したグラフィックノベル。心象風景としてモザンビークの風土、自然、動物たちをアフリカンアートのような大胆なタッチで描き、国と時代に翻弄された若者たちの孤独や友情、恋と心の揺れを生き生きと表現している。

    マングローブの木:アフリカの海辺を緑の林に

    スーザン・L・ロス文とコラージュ シンディ・トランボア文 松沢あさか訳
    さ・え・ら書房/ 2013年/ エリトリア/ 小学校低学年から/ 絵本

    紅海に面したアフリカの小さな国エリトリア。雨はめったにふらず、草木はまともに育たず、人も家畜もおなかをすかせていた村に、一人の学者サトウ博士がやってきた。紅海の塩水につかった浜にマングローブの木を植えようというのだ。この「マングローブ植樹プロジェクト」は、村の女性の働き口となり、やがてマングローブは林となって、家畜のエサや魚の住処を作り、村の暮らしを豊かに変えていった。コラージュを使って村の暮らしぶりを生き生きと描き、巻末の写真もこのプロジェクトの様子をわかりやすく伝えている。

    未来を信じて:南アフリカの声

    ティム・マッキー著 アン・ブラックショー写真 千葉茂樹訳
    小峰書店/ ノンフィクションBooks/ 2002年/ 南アフリカ/ 中学生から/ 207p

    アパルトヘイト体制崩壊後の南アフリカに生きるティーンエイジャー12名の声を集めたインタビュー集。人権を奪われてきた黒人、差別する側にいた白人、やはり差別されてきたカラード、それ以外の人種など、様々な民族的、社会的、経済的背景を持つ人々が、アパルトヘイト下で経験したことや現在もっている希望などを生の声で語る。各インタビューの冒頭には、人物紹介を兼ねた簡潔な社会背景の説明があり、理解を深められる。声の主である若者の写真も数枚ずつ添えてあるので親しみがもて、実情を訴える声がいっそう生々しく伝わる。原書は1999年刊だが、巻末解説では現在南アフリカが抱えるエイズ問題にも触れている。同世代の読者に手渡したい。

    ムクウェゲ医師、平和への闘い:「女性にとって世界最悪の場所」と私たち

    立山芽以子&華井和代&八木亜紀子著
    岩波書店/ 岩波ジュニア新書/ 2024年/ コンゴ民主共和国/ 中学生から/ 156p

    コンゴ民主共和国で性暴力を受けた多くの女性を救い、ノーベル平和賞を受賞したデニ・ムクウェゲ医師の活動と日本の私たちの関係を語る本。ここに書かれた被害女性の苦しみは深い。コンゴの豊富な鉱物を資金源にしようとする武装勢力は、兵士に女性を襲わせて地域住民を怖がらせ、土地を支配しているのだ。その鉱物は、スマートフォンやパソコンなどの生産に不可欠なため、世界中で求められているからである。ムクウェゲ医師と出会い、コンゴの実情を知ってそれぞれの立場で活動をしている3人の著者は、私たちの暮らしもコンゴでの性暴力と無関係ではないと訴え、では、どうしたらいいのかと提案し、一緒に考えようと呼びかけている。

    ルワンダの祈り:内戦を生きのびた家族の物語

    後藤健二著  
    汐文社/ 2008年/ ルワンダ/ 小学校高学年から/ 119p

    大虐殺(ジェノサイド)後10年以上が経ち、立ち直りつつあるルワンダを取材したドキュメンタリー。著者は外国人という立場をわきまえた上で、現地の人々の悲しみや怒りを共有してインタビューを進める。大虐殺を生きのび、現在は国会議員として国の再生に力を発揮している1女性の話が中心となる。民兵から身を隠して逃げたこと。途中ではぐれた我が子を、何か月もかかって見つけ出したこと。夫と長男が隣人に殺された恨みと悲しみは消えることはないが、それでも「生き残ったわたしたちの責任は、幸せに暮らすこと」と語る。大虐殺後の家族の暮らしを描きながら、大虐殺そのものについて知るきっかけともなる作品。取材時の写真も掲載されている。