アナンシと6ぴきのむすこ:アフリカ民話より

    ジェラルド・マクダーモット文・絵 代田昇訳 
    ほるぷ出版/ 1980年/ ガーナ/ 幼児から/ 絵本

    クモのアナンシには6匹の息子がおり、遠目がきくもの、道をつくるもの、川を飲み干すものなど、それぞれ特殊な技能に長けている。あるとき旅先で危険な目にあったアナンシを、兄弟で力を合わせて救い出す。さてだれにごほうびをやったらよいものか、迷うアナンシだったが……。祖先を敬い、口承文化を大切にする土地、ガーナのアシャンティ地方に伝わる民話。クモのアナンシは、アシャンティ人の民話の中の英雄であり、愉快な人気者だという。本作は、アメリカの映画製作者である作者が映画化した作品を絵本化したもの。鮮やかな幾何学形を用いた画面は、アシャンティの伝統絵画にも通じる。リズミカルな展開、おおらかな物語を楽しみたい。

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    岩をたたくウサギ:サバンナのむかしがたり

    よねやまひろこ再話 シリグ村の女たち絵
    新日本出版社/ 2012年/ ガーナ/ 小学校低学年から/ 絵本

    ウサギが、「ゴォーゴ」(バカ)という悪い言葉をやめさせるため、「ゴォーゴと言ったものはペランペランの皮になってしまうことにしよう」と、動物たちに提案する。翌日悪がしこいウサギは、畑を耕すと言って岩をたたいている。それを見た者は、岩の上に畑はできないと思い、つい「ゴォーゴ」と言ってしまう。ヘビもワニも牛も次々に皮だけになってしまい、ウサギは喜んでその皮を持ち帰る。 しかし、ある時ウサギは、ホロホロ鳥にうっかり「ゴォーゴ」と言ってしまう。ガーナの昔話を再話した絵本。ガーナ北部シリグ村の伝統的な手法で描かれた絵がいい。絵の幾何学模様や動物の種類にも、色にも、それぞれ象徴する意味があるという。

    歌う悪霊:北アフリカ サエル地方の昔話から

    ナセル・ケミル文 エムル・オルン絵 カンゾウ・シマダ訳
    小峰書店/ 2004年/ 北アフリカ/ 小学校高学年から/ 絵本

    昔、ひどく貧しい一家があり、男は悪霊の住む荒れ野を自分の麦畑にしようと決意する。まず足下のイバラを1本引き抜くと、地底から歌声が響いてきた。「おまえは、そこで、なにをしている?………いったい、………なにを?」男が答えると、「てつだってやる!」と悪霊たちが現れて……!? 作者はチュニジア生まれの映画監督で物語作家。現れるたびに倍に倍にと悪霊の数が増えていき、取り返しのつかない悲劇に陥るまで、読者はぐいぐい引き込まれてしまう。強烈な物語の力と凄みのある絵画がひとつになってリアルに迫り、救いのない結末に至る。昔話絵本の形をとってはいるが、圧倒的な表現力と深い読後感を味わえる。中高生にも手にとってもらいたい1冊だ。

    運命の王子:古代エジプトの物語

    リーセ・マニケ文・絵 大塚勇三訳 
    岩波書店/ 1984年/ エジプト/ 小学校中学年から/ 絵本

    3000年以上前のエジプトの昔話。パピルスに記録された文書と、同時代のエジプト美術や壁画をもとにしてつくられた絵本。結末はパピルス文書が紛失しているため作者が創作した。鮮やかな黄と青を下地に、神話の世界のような絵で物語が展開する。神への祈りが通じてようやく授かった王子が、ワニかヘビか犬に殺される運命を負い、3つの動物から隔離されて育つ。成長した王子は、旅に出て北のナハリン国(今のイラクの一部)に至り、塔に住む王女の窓まで跳躍するという難題をこなして結ばれる。王女の機転によりヘビから救われ、ワニと戦うが、犬に噛みちぎられる。しかし再び王女の力で蘇生する。

    おおぐいひょうたん:西アフリカの昔話

    吉沢葉子再話 斉藤隆夫絵  
    福音館書店/ こどものとも世界昔ばなしの旅/ 2005年/ ニジェール/ 幼児から/ 絵本

    少女フライラは、おかあさんと畑仕事の帰りに小さなヒョウタンを見つけ、取ってほしいと言うが、おかあさんはもっと大きくなってからと言い聞かせる。家に帰りふくれっ面をしているフライラを見て、おとうさんは取ってやったらいいと言う。翌日ヒョウタンを蔓からもぎ取ると、ころころ転がり、フライラが駆け出すとついてくる。その上、「にくがくいたい」とフライラの足に噛みつき、逃げようとすると次から次へと家畜を食べてしまう……。作物はちゃんと大きく育つまで待たなくてはいけないという教訓を伝える昔話。絵は西アフリカの人々の暮らしや、物語の持つ滑稽な感じを、動きのある画面で効果的に見せている。初版は1999年「こどものとも」。

    『オノモロンボンガ』表紙

    オノモロンボンガ:アフリカ南部のむかしばなし

    アルベナ・イヴァノヴィッチ=レア再話 ニコラ・トレーヴ絵 さくまゆみこ訳
    光村教育図書/ 2021年/ アフリカ南部/ 幼児から/ 絵本

    昔、かんばつに見舞われて動物たちが飢えていた時、カメがおいしそうな果実の木の夢を見る。物知りのおばあさんに、それは「オノモロンボンガ」という魔法の木で、木の名前を言って挨拶すれば実を食べさせてもらえると教わったカメは、魔法の木を目指して出発する。途中でライオンが、次はゾウが、その次はガゼルが、その役目は自分の方がふさわしいと走り出すが、みな途中のトラブルで木の名前を忘れてしまう。カメだけが無事に到着して正しい名前を叫んだので、集まった動物たちはおいしい実をたっぷり食べ、その種からいろいろな果物が育つ。アフリカ各地に類話があり、それを元にした絵本も複数あるので、読みくらべるとおもしろい。

    おはなしおはなし:アフリカ民話より

    ゲイル・E・ヘイリー文・絵 あしのあき訳 
    ほるぷ出版/ 1976年/ ガーナ/ 幼児から/ 絵本

    ガーナのアシャンティ地方の昔話の主人公で、クモ男とも言われるクワク・アナンセ(アナンシ)が活躍する愉快な絵本。その昔、空の王者ニヤメがすべてのお話を黄金の箱の中に入れて独占していた。アナンセはそのお話を買い取ろうと、クモの糸で長いはしごをつくり、ニヤメを訪ねる。ニヤメは、お話がほしいなら「ガップリかみま」のヒョウ、「チックリさしま」のクマンバチ、「コッソリいたずらま」の妖精を持ってくるように言う。そこでアナンセは知恵をしぼり……。テンポのよい物語の展開と、美しい木版画がアフリカの空気を伝える。アナンセの昔話はアフリカ中にあるわけではないので再版時には前書きを変えてほしい。1971年コールデコット賞受賞作。

    和田正平著『お話は土の城のテラスで』メディアイランド

    お話は土の城のテラスで:西アフリカ・トーゴの昔話集

    和田正平 再話
    メディアランド/ 2016年/ トーゴ/ 中学生から/ 198p

    文化人類学者である著者が、西アフリカのトーゴ北部に住むタンベルマの人々から収集したお話の中から、24話を選んでまとめている。人や動物、幽霊や神さまなどがさまざまに活躍するこれらの話には、村での暮らすための人生訓、処世訓などのメッセージが込められているという。タンベルマの人々が住むのは、ユネスコ世界遺産にも登録されるほど独創的な砦型住居。それを著者は「土の城」と呼び、サバンナに夕日が沈む頃、その屋上のテラスで夕涼みをしながら昔話が語られはじめる様子を、愛情を持って描いている。版画風のイラストや、巻末の解説やあとがきから、長い間、独特の文化を守ってきた人々の暮らしぶりを知ることができる。

    かしこいカメのおはなし:アフリカのむかしばなし

    フランチェスカ・マーティン文・絵 福本友美子訳 
    ポプラ社/ 2000年/ タンザニア/ 幼児から/ 絵本

    動物たちが仲よく暮らすニャサという湖の岸辺で、ある日、騒ぎが起こる。ゾウとカバが、それぞれ自分の大きさと力を自慢して暴れ出したのだ。おびえる小さい動物たちの中で、賢いカメは知恵を働かせ、2匹に綱引きを申し込む……。タンザニア南部に伝わる昔話。イギリス在住の作者だが、タンザニアで過ごした少女時代に最も好きだったお話とのこと。細やかに描き込まれた動物や植物、自然の表情が豊かで、見飽きることがない。デザイナー出身の画家らしく、見開きごとの装飾模様やコマ割りも効果的で、趣がある。訳文も、親しく語りかける調子と、生き生きとした会話体によって、わかりやすく幸福な物語を伝えている。

    『木バラかと魔法の馬』(岩波版)表紙

    キバラカと魔法の馬:アフリカのふしぎばなし

    さくまゆみこ編訳 太田大八挿絵
    岩波書店/ 岩波少年文庫/ 2019年/ 小学校中学年から/ 198p

    アフリカ大陸のあちこちで語られてきた昔話13話を収める。「山と川はどうしてできたか」(ケニア)、「魔法のぼうしとさいふと杖」(チャド)、「ヘビのお嫁さん」(タンザニア)、「悪魔をだましたふたご」(リベリア)、「ワニおばさんとの約束」(ナイジェリア)など、自然や動物と深く関わりながら暮らしてきたアフリカの人々の豊かな想像の世界を楽しむことができる。村を飲み込む巨人が出てくるスケールの大きな話、精霊や魔神の力が発揮される不思議な話、恩を仇で返したらどうなるかという教訓的な話など、それぞれに趣が異なりおもしろい。1979年に冨山房から出版された本が、版元をかえ文庫版で復刊された。

    くいしんぼうシマウマ

    ムウェニエ・ハディシ文 アドリエンヌ・ケナウェイ絵 草山万兎訳
    西村書店/ 1988年/ ケニア/ 幼児から/ 絵本

    シマウマの体はなぜしま模様なの? そんな子どもたちの疑問にこたえてくれる、ユーモラスなケニアの昔話。その昔、動物はみんな、うすぼけた情けない色だった。ある嵐の日、ジャングルのまん中に巨大な洞穴が現れ、そこには無数の毛皮の山が。ニュースを聞きつけた動物たちは洞穴に急ぐが、食いしんぼうのシマウマだけは食べることに夢中。シマウマがやっと洞穴に着いたときには……。ケニアをよく知る画家によって描かれた動物たちの表情がなんともおかしく、ラストでは思わずクスリと笑ってしまう。訳者はアフリカで何度も現地調査を行った動物学者で、本の冒頭には動物学的観点から見たこの本の解説がある。

    古代エジプトのものがたり

    ロバート・スウィンデルズ再話 スティーブン・ランバート絵 百々佑利子訳
    岩波書店/ 2011年/ エジプト/ 小学校低学年から/ 絵本

    5000年以上前に始まり、3000年も続いた古代エジプト文明。ピラミッドなどファラオ(王)の墓やパピルス紙に記録されたヒエログリフ(象形文字) を解読することで、古代エジプトの様々な物語が明らかになった。その中から、エジプトの太陽信仰を語る「太陽神ラーの神話」、イシス女神の愛情の深さを語る「オシリスの神話」、ファラオを支えた魔術師たちの物語「ファラオと神と魔術師」を再話している。怒れる神々や力強い魔術師たちの壮大な物語が生き生きと語られ、読者を不思議に満ちた古代世界へと連れていってくれる。やわらかな色彩で描かれた挿絵も趣をそえている。

    ごちそうの木:タンザニアのむかしばなし

    ジョン・キラカ作 さくまゆみこ訳
    西村書店/ 2017年/ タンザニア/ 幼児から/ 絵本

    日照りつづきで食べる物がなくなってしまった土地に、たわわに実をつけるふしぎな木が1本立っていた。お腹をすかせた動物たちはその木の下に集まるものの、どうしても実をとることができない。ノウサギが賢いカメに相談にいくと申し出たのに、大きな動物たちに「おまえは小さすぎる」と言われて・・・。作者は、ティンガティンガ・アートを学び、現地で語り継がれる昔話を収集し、ストーリーテラーとしても活躍している。本作は作者の出身地タンザニア南西部に暮らすフィパの人たちに伝わる語りを記録してつくられた。素朴な展開と、木の名前「ントゥングル・メンゲニェ」の語感とが絵にマッチしたユニークな絵本。

    ゴハおじさんのゆかいなお話:エジプトの民話

    デニス・ジョンソン・デイヴィーズ再話 ファトゥーラ&アハマド絵 千葉茂樹訳
    徳間書店/ 2010年/ エジプト/ 小学校中学年から/ 93p

    中東には、時にはまぬけで時には賢く、時にはトリックスターの役割も果たす人物の物語が、さまざまな形で伝わっている。この本では、ゴハおじさんが登場するエジプトの15編の昔話を紹介。庶民に愛され続けてきたゆかいなおじさんの、おおらかな笑い話や、とんち話が集められている。挿絵は、イスラム教の模様を刺繍したり縫ったりしている伝統工芸の職人がつくった布絵。さまざまな色の布を縫い合わせたアップリケであらわされる動物や人物、そしてゴハおじさんの表情が、ユーモアたっぷりで味わい深く、物語に彩りを添えている。

    しあわせのなる木:アフリカの民話集

    島岡由美子文 ヤフィドゥ・マカカと8人のティンガティンガ・アーティストたち絵
    未来社/ 2017年/ 東アフリカ/ 小学校高学年から/ 221p

    乱暴者で大食いのゾウの鼻が長くなったわけ、毛むくじゃらでと仲良しだったカバが今は川に住むのはなぜか、歩いて山に登っていたチョウチョウに羽がはえた理由など、「ハポ ザマニザカレ(スワヒリ語で、昔々あるところに)」という決まり言葉から始まるお話が集められている。一見どのお話も破天荒に思えるが、読み進むうちに、そこに生きるための知恵が隠れているのがわかる。タンザニア在住の著者が採集した約300の東アフリカの民話の中から20話を選び、9人の画家が、それぞれのタッチで鮮やかな絵をつけている。巻末には、お話の背景だけでなく、今の子どもたちの暮らしぶりが写真付きで紹介されている。

    しんぞうとひげ

    しまおかゆみこ再話 モハメッド・チャリンダ絵
    ポプラ社/ 2015年/ タンザニア/ 小学校低学年から/ 絵本

    「むかしむかし、あるところに、しんぞうとひげがおりました。」という文章とともに、手足のついたしんぞうとひげが登場。タンザニアのザンジバルで聞いた民話を再話した絵本。人間の男にひげがあり、ドキドキする心臓が左胸にある由来を語っている。絵は、タンザニアの民衆画、ティンガティンガ・アートの画家が描いている。たくさんの動物や豊かな自然、人々の生活のようすがのびのびとした筆使いで描かれ、楽しい。語りはじめに交わされる語り手と聞き手の掛け合いは、アフリカでも地域によってちがい、「パウカー」「パカワー」というのは、ザンジバル独特のもの。

    たいようとつきはなぜそらにあるの?:アフリカ民話より

    エルフィンストーン・ディレル文 ブレア・レント絵 きしのじゅんこ訳
    ほるぷ出版/ 1976年/ ナイジェリア/ 幼児から/ 絵本

    昔々、太陽と水は仲よく地面の上に住んでいた。太陽は水の家を訪ねるが水は一度も太陽の家に来ないので、太陽がそのわけをたずねると、水は、家族が大勢なので広い場所でなければ訪ねられない、と答える。そこで太陽と奥さんの月は大きな家を建てるが……。太陽と月が空にあるわけを語るこの話は、南ナイジェリアの地区監督官だった著者がアフリカの民話をもとにつくり上げたもので、絵になっている風俗はアフリカ的であっても一種族、一国家をモデルにしたものではないと言う。水の家族があふれるように次々と訪ねてくるというシンプルな話に、抑制された線と色、素朴なモチーフを使って描かれた絵がマッチしている。

    どうしてカはみみのそばでぶんぶんいうの?:西アフリカの民話より

    ヴェルナ・アールデマ文 レオ・ディロン、ダイアン・ディロン絵 やぎたよしこ訳
    ほるぷ出版/ 1976年/ 西アフリカ/ 幼児から/ 絵本

    蚊にばかばかしい話を聞かされたイグワナが、耳に木の枝で栓をしてしまったことから、ヘビがウサギ穴に逃げ込み、びっくりしたウサギが飛び出し、あげくの果てに、夜がいつまでも続くようになり……そして、どうして蚊が耳のそばでぶんぶんいうようになったのかは、読んでのお楽しみ。因果関係で思わぬ展開をするストーリーと、ユニークな擬音語、擬態語のくり返しが楽しい、西アフリカの昔話絵本。動物たちは図案化されているが、表情豊かで見飽きない。くっきりとした色使いの大きな絵、大胆な画面構成で、ページをめくるごとにはっとさせられる。

    西アフリカ おはなし村

    国立民族博物館編 江口一久文 アキノイサム絵
    梨の木舎/ 2003年/ カメルーン/ 小学生高学年から/ 117p

    西アフリカ、カメルーンのフルベ人の研究をしている著者が採集してきた口承の物語の中から25話を選んで紹介する。頭がよくてすばしこいウサギやリス、いつも腹をすかせているハイエナなどの動物に託して日常の知恵や振る舞い方を教える話や、精霊の出てくる話などバラエティに富んでいる。物語の語り始め、語り終わりの決まり言葉などもおもしろく、生きた語りとはこのようなものであったのかとわかるのも貴重だ。2003年に国立民族博物館で開かれた特別展覧会「西アフリカおはなし村」で展示された写真、資料などもまとめて掲載され、暮らしぶりや衣食住、音楽などについて、ざっくりと雰囲気を知ることもできる。

    ノウサギの家にいるのはだれだ?

    さくまゆみこ再話 斎藤隆夫絵
    玉川大学出版部/ 2022年/ ケニア/ 幼児から/ 絵本

    東アフリカに暮らすマサイの人たちの間に伝わる昔話。ノウサギが外から戻ると、家の前に足あとがついていた。「おいらの家にいるのはだれだ?」ノウサギがたずねると、「おれは、つよくてゆうかんな戦士だぞ」と家の中から声がする。ノウサギは、仲間の動物たちに助けを求めるが、「ゆうかんな戦士」が一度も負けたことがないと言うのを聞いて、みんな怖くなって次々に逃げてしまう。しかし、最後にカエルが負けずにどなり返したところ、正体をあらわしたのは小さな青虫だった。大言壮語に惑わされる動物たちと、実はおびえていた青虫との対比が愉快。日本人画家による絵もユーモアたっぷりで、くり返し読みたくなる楽しさがある。

    『ノウサギのムトゥラ』表紙

    ノウサギのムトゥラ:南部アフリカのむかしばなし

    ビヴァリー・ナイドゥー作 ピート・フロブラー絵 さくまゆみこ訳
    岩波書店/ 2019年/ 南部アフリカ/ 小学校中学年から/ 142p

    ノウサギのムトゥラはいたずら者。ムトゥラを「ちび」とバカにしていばりちらすゾウに綱引きの勝負をいどみ、実際は綱の一方をカバに引かせて出し抜いたり、ライオン王が人間の娘を嫁にもらおうと、贈り物に子ウサギ10匹をかついでいくところをうまくだましたり。でも、長いしっぽがヒヒにつかまれ、ちょんぎれてしまったり、カメとかけっこをしてうっかり負けてしまったり、まぬけなところもあって憎めない。南アフリカ連邦に生まれ育ち、後にイギリスに亡命して作家となった著者が、子ども時代に聞いた昔話をユーモラスな語り口で再話した。ボツワナ、ナミビア、南アフリカ共和国にまたがって暮らすツワナの人たちに伝わる8話を収める。

    バオバブのきのうえで:アフリカ・マリの昔話

    ジェリ・ババ・シソコ語り みやこみな再話 ラミン・ドロ絵
    福音館書店/ 2005年/ マリ/ 幼児から/ 絵本

    マリの語り部が語る中世バンバラ王国の物語の再話に、ドゴンの祭司の家に生まれた画家が絵をつけた絵本。ジョレの村は、種まきの季節にも雨が降らない。その原因は、森に住むひとりの男の子の悲しい呪いの歌だった。バオバブの木に登り「ジョレにあめふるな」と歌うその子は、村人によって森に捨てられた孤児。村人たちが説得しても木から降りようとしないが、ついに自分とそっくりの村の男の子のおかげで心を溶かす。無事に雨が降り、あらためて村に迎えられた男の子は、森の生き物から教わった知恵を王に認められ、やがて賢い王となる。単色の絵と静かに展開する物語は、森や自然の不思議さをしみじみと伝える。初版は1996年「こどものとも」。

    ふしぎなボジャビのき:アフリカのむかしばなし

    ダイアン・ホフマイアー再話 ピート・フロブラー絵 さくまゆみこ訳
    光村教育図書/ 2013年/ 幼児から/ 絵本

    アフリカのいくつかの地域に伝わる昔話の絵本。何日も雨が降っていない平原で、おなかをすかせた動物たちが赤い実がついた木を見つける。でも、その木に巻き付いた大きなヘビは、木の名前を当てないと、どいてくれない。そこで動物たちは次々に、木の名前を知っているサバンナの王さまライオンを訪ねていく。木の名前を覚えようと悪戦苦闘する動物たちの様子がゆかいで、次はどう間違えてしまうのか気になり、早く次のページをめくりたくなる。歌いながら語るような文章と繰り返しの部分も楽しい。南アフリカで生まれた作者と作家による作品で、ユニークな絵がサバンナに読者をいざなう。

    ほーら、これでいい!:リベリア民話

    ウォン=ディ・ペイ、マーガレット・H・リッパート再話 ジュリー・パシュキス絵 さくまゆみこ訳
    アートン/ 2006年/ リベリア/ 小学校低学年から/ 絵本

    「むかしむかし、あたまはひとりぽっちでした。」頭と腕と足と胴体は別々で、頭はごろごろ転がって動くしかない。ある日、頭は腕や足や胴体と出会い、「これでどう?」「それとも、こうかな?」と工夫を重ねて、ようやくひとつに。そして木の上のサクランボをとってぱくり……。リベリア北部に暮らすダンの人々が子どもたちに伝えてきた物語で、人間はそれぞれが持ち味を出し、みんなで力を合わせることが大事だと物語っている。著者のペイは語り部の一家に生まれ、昔話の語りを祖母に仕込まれて育った。ガーナの伝統的な旗からインスピレーションを得たという絵も楽しい。豊かでユーモラスなアフリカの文化を感じる絵本。

    むらの英雄:エチオピアのむかしばなし

    わたなべしげお文 にしむらしげお絵
    瑞雲舎/ 2013年/ エチオピア/ 小学校低学年から/ 絵本

    むかしむかし、村から12人の男が、町へ粉をひきに出かけていった。帰り道、森の中を通りかかったとき、ひとりの男が、仲間がそろっているか気になり、人数を数えてみると11 人しかいない。今度は別の男がやっぱり自分を数えないまま、「だれかいないぞ」と大さわぎ。「きっとヒョウにやられたにちがいない」と悲しみ、帰ってから村人に勇敢に戦った男の話をしていると……。なんともゆかいで大らかなエチオピア民話を、のびのびとした版画で魅力的に描き出している。シンプルな話ながら、さまざまな解釈ができるのも楽しい。民話集『山の上の火』(岩波書店)の中の「アディ・ニハァスの英雄」を絵本化したもの。

    もどってきたガバタばん:エチオピアのお話

    クーランダー・レスロー文 ギルマ・ベラチョウ絵 渡辺茂男訳
    福音館書店/ こどものとも世界昔ばなしの旅/ 1997年/ エチオピア/ 幼児から/ 絵本

    『山の上の火』(岩波書店)所収の「しょうぎばん」を絵本化したもの。木の板にいくつかの丸いくぼみをつくったゲームボードを、ここでは原語どおりにガバタ盤と呼んでいる。日本の昔話「わらしべ長者」に似た物語で、主人公の男の子の持っていたものが、人に出会うたびに渡され、違うものとなって手元に戻るのがおもしろい。ガバタ盤からナイフ、槍、馬……と変わっていくのだが、最後はまたガバタ盤が男の子の手元に残り、家に帰るというのが「わらしべ長者」と大きく違うところ。エチオピア伝統絵画を学んだ画家の絵は、人々の暮しや習俗を味わい深く表現し、素朴でくっきりとした物語によく合っている。初版は1986年「こどものとも」。

    やったねカメレオンくん

    ウェニイー・ハディシィ文 エイドリエンヌ・ケナウェイ絵 久山太市訳
    評論社/ 1993年/ 幼児から/ 絵本

    大きくて力の強い動物と、小さくて弱いカメレオンの知恵比べを、動きのあるユーモラスな絵で語る。動物たちの表情が豊かで楽しい。カメレオンはいつもヒョウとワニに意地悪をされるが、どんなに怒っても彼らには通じない。ある日カメレオンはワニとヒョウをだまし、ハタオリドリにつくってもらったロープをそれぞれにかける。そして体の色を巧みに変えて、ワニとヒョウに引っ張りっこをさせてやっつける。著者の表記はムウェニエ・ハディシとする出版社もある。著者はケニア生まれで、ロンドン大学在学中にアフリカの伝承物語の魅力を再発見する。画家はケニアで育ち、著者との動物寓話絵本で評価を得、本作品でケイト・グリナウェイ賞を受賞。

    山の上の火:エチオピアのたのしいお話

    ハロルド・クーランダー&ウルフ・レスロー文 渡辺茂男訳
    岩波書店/ 岩波おはなしの本/ 1963年/ エチオピア/ 小学校中学年から/ 158p

    エチオピアのお話15編を集めた昔話集。寒い山の頂に、食べ物も水も着物も毛布も火もなしに一晩はだかで立っていられたら家畜と土地をやると言われた若者は、見事やりとげるが、向かいの山の火を見ていたと言われ、約束のものをもらえない。機知を働かせた若者が、どうやって約束を果たさせたかという表題作をはじめ、りこう者やまぬけ、ごうつくばりなど、人間味あふれる人々が登場する話はどれも楽しく、クスリと笑ったり、あきれたり感心したりしながら、ひきつけられる。言葉遣いにやや古めかしい部分があり、子どもが自分からは手にとりにくいが、1編読んでやると、ほかの話も読みたくなりそうだ。力強い線画がお話の世界をふくらませている。

    ライオンとねずみ:古代エジプトの物語

    リーセ・マニケ文・絵 大塚勇三訳 
    岩波書店/ 1984年/ エジプト/ 小学校中学年から/ 絵本

    デンマークのエジプト学者が、「デモティック」と呼ばれる象形文字で書かれた物語を古文書から訳し、再話した絵本。昔、砂漠の中にいた大きくて強いライオンが、人間によってひどい仕打ちにあった動物たちに出会い、腹をたて、人間をさがしに出かけた。その途中、1匹の小さいネズミに出会ったライオンは、小ネズミをふみつぶそうとするが、「命を助けてくれたら、あなたの命も助ける」というネズミの提案を聞き入れ逃がしてやる。ところがライオンは人間の罠にかかってしまい……。マニケ自らが描いた、古代エジプトの壁画・浮彫などの形や色をいかした絵が魅力的。見返しにはこの物語の冒頭がデモティックで書かれている。